2020.05.17　ラザロの姉妹マリヤ

イエスたち一行はエリコを出て、エルサレム丘陵の坂道を西南方向に歩き、十数キロ先のベタニヤ村へ入られた。マルタ、マリヤ、ラザロの家がある。ベタニヤ村からエルサレムは三キロほどだった。ユダヤ人最大の祭（過越祭）が六日後にあるため、熱心な人たちが前もって内外からエルサレムに集まって来た。エルサレムの人口は普段の三倍に膨れ上がったという。

ヨハネ福音書11章によれば、前回イエスがこの家に来られた時は、ラザロが重病に陥り、亡くなった直後だった。マルタはイエスに急を知らせ、助けを求めたが、イエスが敢えて二日遅らせてから向かわれたため間に合わなかった。マルタは、「もう少し早く来てくださっていたら、わたしの兄弟は死なずに済んだでしょうに」と泣いて悔やんだ。イエスは彼女に、「わたしはよみがえりであり、命である。わたしを信じる者は、たとえ死んでも生きる。あなたは、この事を信じるか」と言われた。マルタは、「主よ、信じます」と答えた。イエスはラザロの遺体が置かれた墓穴に行かれた。穴を塞ぐため入口にいくつもの石が積み上げられていた。「石を除けなさい」とイエスが言われた。するとマルタが、「主よ、死んで四日も経っています」と言った。するとイエスは、「信じるなら神の栄光を見るようになると言ったではないか」と言われた。そこでマルタは石を除けさせた。イエスは大声で、「ラザロよ、出てきなさい！」と叫ばれた。すると布で巻かれたラザロが墓穴から出てきた。みなが驚いた。この噂はまたたくまに広がった。

マルタはイエスたちの食事を用意し、ラザロも一緒に食事した。ラザロの事で話題はもちきりだった。イエスは笑顔で弟子たちの話に耳を傾けておられた。するとそこにマリヤが小さな石膏の壺をもって入って来て、イエスのそばに立ち、イエスの頭に壺の香油を注いだ。香油はイエスの両肩にまで垂れ下がる長い髪を伝わっていった。すると香しい薫りが部屋一面に広がった。次にマリヤはイエスの足もとにかがみ、両の足に香油を塗った。そして自分の長い髪で足を拭った。弟子たちは唖然として見ていた。が、イスカリオテのユダが言った、「なんというムダな事をするのか。その高価な香油を売れば相当な値で売れるのに。売った金で貧民に施してやればよかったのに。バカな事をしたものだ」。他の弟子たちも、そうだそうだと言った。マリヤは顔を伏せた。「なぜこの女を困らせるのだ。この人はわたしによい事をしてくれたのだ。わたしの葬りの用意をしたのだ」と。女にその意図はなかった。しかしイエスはそう解釈された。

人の目にはラザロの事もマリヤの事も、出来事がすべて偶然の連続に見えるが、イエスの心の目には、神の計画と目的が次々に成し遂げられていると映っていたのだ。