2020.05.03　エリコの取税人ザアカイ

ルカは福音書第 19章で、エリコの町に入ったイエスと、ザアカイ（収税所所長）との出会いを紹介している。イエス一行はガリラヤから途中ヨルダン川に沿って南下して、西のエリコに入られた。エリコから西のエルサレム丘陵をのぼってエルサレムに入るという行程である。イエスにとって最後の過越祭への旅となる。

ザアカイはローマ政府に納める税を徴収する業務を請け負っていた。割り当てられた額をローマの役人に納めれば、後は自由に自分の取り分にすることができたから、私腹を肥やす事もできた。ルカはザアカイが「金持ちだった」と書いている。しかし金持ち、必ずしも「幸福」とは限らない。カネで手に入るものなら何でも得ることができるが、心はカネ、モノ、人だけでは満たされない。心は「神のかたち」（霊）であり、神の霊によらなければ満たされないのである。イエスは言われた、「人を生かすものは霊であって、肉（霊以外のもの）は何の役にも立たない。わたしが話した言葉は霊であり、命である」（ヨハネ 6:63）。ザアカイはやっとこの事に気がついた。金持ちなのに、心に平安も感謝もない。希望も愛もない、まるでスカスカ状態だと。心の空腹感を何によって満たすことができるのか。わからなかった。どうすればよいのか。彼の心は叫び求めていた。

そのような時に、イエスがエリコに来られた。イエスの噂は聞いていた。どんな人なのか見てみたい。過越祭のため必ずここを通られるにちがいない。待っていた。だからイエスは、ザアカイが樹の上から見下している事を知った上で、彼に声を掛けたのである。「ザアカイ、急いで降りてきなさい。あなたの家に泊まろう」（5）。ザアカイは驚いた。思いもよらぬ事だった。なぜ自分を知っているのだろう。嬉しさに胸が高鳴り、そのままイエス一行を自分の豪邸に案内した。町中の人々も驚きながら見ていた。

イエスはザアカイに何を話されたのか、ルカは一切記していないが、ザアカイの心が一変した。財産の半分を貧しい人にささげると約束した。何があったのか。彼は神を知ったのだ。それまでこの世のもの（カネ、モノ、人）しか知らず、この世のものでは満たされなかった彼が、イエスの語る言葉を聞いて神と神の国、すなわち永遠の霊の世界を知った。人の霊魂を生かし、救うのは、神の霊（聖霊、みことば）だけだとわかったのだ。

究極の発見をした（天の宝を見つけた）彼は、喜びと感謝があまりにも大きいため、心から溢れ出て、貧しい人たちへの愛と哀れみへと変わり、自分の財産をささげる事に大きな喜びを見出した。こうして彼は、神により生まれ変わった。